ネオ古今和歌集

読むとIQが下がります

イタリアーノ・キムタク(後編)

イタリア人と会話してみて少し意外だったのは

「イタリア人も英語に堪能な人間は多数派ではない」

ということだった。

 

欧米人というのは概して母国語以外に英語にも堪能なものだと思っていたが,日本人と同じく母国語以外は話せないという方も存外,多いようだ。

 

 

しかし飲み会の中で,イタリア人一行のうち唯一英語と日本語を理解できる人物と話をすることができた。

 

 

彼の名は「マテオ」といった。

 

 

彼はイタリアで日本人の恋人がいるとのことで,日本語にも多少明るく,私が名前を尋ねるとイタリア訛りの英語で自己紹介をしてくれ,最後に

 

 

 

「チョ,マテヨ!チョ,マテヨ!」

 

 

 

と繰り返した。

 

 

どうやら彼は「マテオ」という名前が「待てよ!」に近い音だと知って,我々が覚えやすいようにキムタクのモノマネで自己紹介をしてくれたらしかった。

 

 

 

 

 

 

彼はなんと

 

 

 

イタリアのキムタク

 

 

 

だったわけである。

 

 

他の方も気さくな人ばかりで,私が

 

 

「俺の先祖はサムライだぜ」

 

 

と抜かせば,冗談と分かっていても爆笑してくれる。さすがは陽気なイタリア人だと感心した。

 

日本の文化を理解して積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくれる彼らの姿にはどこか心打つものがあった。




アニメを起点にして上手くコミュニケーションが取れ始めた私は,気を大きくし,酔っていたので記憶が定かでなく,やや誇張も入っているかも知れないがこんな質問をした覚えがある。




 

 

 

 

 

「......Hahahahahaha!





 

 

 

 

 

 

By the way,

(ところで)







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Do you know Taimanin Asagi

(あなた方は対魔忍アサギ*1を知っていますか?)」

※知らない方は絶対に検索をしてはいけない


 

 

 

 

欧米人が好きな物といえば

 

 

 

忍者,侍,富士山

 

 

 

の3つであることは日本人にとって周知の事実である。




 

そして私は日本でも名うての

 

 

「Japanese Hentai(日本的変態)」

 

 

として知られた男である。



その安直かつステレオタイプなイメージをもって




 

エグいほど汁っ気のある



 

 

 

 

 

どエロくのいちの

成人向けアニメを紹介した。

 

 

 

  




当然,彼らは知るはずもなかったが我々はアニメーションという共通言語で,すっかり打ち解けていたので私の繰り出すエロ忍者トークに興味津々であり,私はすぐさまスマートフォン

 

 

「対魔忍アサギ エロ」で検索し

※絶対に検索してはいけない

 

 

彼らに



 

 

性的感度を3000倍に強化された

ズッチョンズッチョンなくのいちを




 

 

 

「This is Japanese traditional Ninja!

(これは日本の伝統的な忍者です)」



 

 

 

 

と付け加えて,お見舞いしてやったのであった。

 

今も日本のどこかで活躍している伊賀忍者甲賀忍者に暗殺されても文句は言えない所業である。



 

しかし,私の予想通り,彼らは爆笑の渦に包まれた。



彼らはお返しとばかりに日本で名うての変態である私も知らないような

 

 

 

胸元のはだけた中性的な少年の描かれたアニメDVDのパッケージを見せつけてきて



 

 

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(実物はもう少しハードコアな感じでした)

 

 

 

 

 

「これが俺たちの大好きな

ジャパニーズアニメーションだ!」



 

 

 

と負けじと誇示してきた。

 

 

 

これには私も舌を巻き

 

 

 

 

「My favorite animation is this!

(私の一番好きなアニメはこれです)」

 

 

 

 

と,小学生が使うような文法で大笑いをかました。

 

 

イタリア人と日本人の男たちが喧々諤々と特殊性癖を刺激するアニメ談議を交わす様は,たった一夜ではあるが,WHOのテドロス局長もびっくりな




 

 

 

 

 

 

World Hentai Organization

(世界変態機関)の誕生であった。





 

 

 

 

 

やはりエロは言語を超えて万国共通なのである。





ひとしきり飲み明かした我々は24時近くになって河岸を変え,新宿の花園神社で年末特有の静寂と喧騒の入り混じった東京らしい雑多な雰囲気に包まれていた。

 

 

周囲の参拝客がカウントダウンを始める中,境内に向かう石段の上で,イタリア人の彼らが叫んだ



「トレ,ドゥーエ,ウノ!」



の掛け声の中に,酒に酔い陽気な気分を纏った地中海の雰囲気を感じられたような気がする。




 

その後は,朝方まで開いている近くの中華料理屋で気だるい時間を過ごした。

 

マテオがお土産で持ってきたイタリアで祝い事の時に食べるという,ヘルメットのような巨大なケーキをご馳走してもらい,甘くなった口を中華料理で中和するというなんとも異国情緒漂う年の初めだった。



酒に酔いつぶれた仲間を抱えながら

ホテルへ戻る彼らに別れを告げた私は

心地よい疲労感を抱いて,寒空の下

マフラーで口元を隠しながら家路に着いたのだった。





 

あれから1年以上経った。

 

 

 

彼らは今,どうしているのだろうか。

 

 

イタリアのニュースを見かける度に一夜ばかりの奇妙な異文化交流が思い出される。




ようやくワクチンの接種が始まり

全世界を巻き込んだ感染症騒動にも

かすかに光明が見え始めたように思う。



もしいつか彼らと再び会うことができたなら



 

 

 

 

とびきりのJapanese Hentaiを

見せつけてやろう

 

 

 

 

そう願ってやまない。



*1:※絶対に検索をしてはいけない

イタリアーノ・キムタク(前編)

私が知っているイタリア語といえば

 「チャオ!」「ボーノ!」
の2語のみであり,そのどちらとも教えてくれた師は間違いなく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(真ん中の二人ではない。一番右である)

 

 

 

 



パンツェッタ・ジローラモである。



 

 

 

そんなイタリア語に疎い私が最近覚えた単語は

 

 

「Merda」

 

 

という短いワードなのだがこれは仕事でイタリア赴任中の友人が,私の誕生日に贈ってくれた言葉である。

 

 

わざわざイタリアから

 

「誕生日おめでとう!Merda!」

 

と,イタリア語交じりの小粋なメッセージを贈ってくれたのだが,

 

当時の私は「洒落たメッセージをありがとう」程度に思っていて,その軽妙で気軽な語感から

 

「おめでとう!」「良い一年を!」

 

くらいの意味なのかなと想像していたのだが

 

 

あとあと聞いたところによれば「Merda」は




 

英語で言えば



 

 

「Shit」



 

 

であり,日本語で言えば



 

 

 

「糞」

 

 

という意味だった。

人の誕生日になんてワードを教えてくれたのだろうか。

 

 

「誕生日おめでとう!糞!」......。

 

 

しかし,海外の文化で真っ先に教えられるのが,汚いスラングや下ネタなんていうのは,よく聞く話である。




思い返せば一年ほど前

コロナ禍で爆発的に感染が拡大したイタリアのニュースを聞いた時

イタリア赴任中の友人が気がかりだったのと同時に

以前,共に年を越したイタリア人達は

どうしているのだろうかと思いを馳せていた。



 

それは一昨年の暮れのことである。

例の友人がイタリアから日本へ帰国し,毎年恒例となっていた年越しオールナイトで飲み会をしていた時のこと。

友人の紹介で4人のイタリア人が参加することになった。

 

 

毎年,年越しの宴では気の置けない酒道楽の友人達と一年の苦楽を語り合い,年始を祝うのが恒例となっていたが,イタリアからの来客は予想外だった。

 

 

友人達の中で特に外国語に精通した人間はいなかったこともあり,初めのうちは我々の間に少しばかり緊張が漂っていたように思う。

 

まさにイタリアのように

 

”遠くにあるけど行けなくはない。

しかし気軽に行けるものでもない。”

 

そんな感じ。

 

 

しかし,そこは八方美人で名の知られた私の出番である。

 

 

元来,人見知りかつ根暗の私はコンプレックス解消のため,長年にわたり八方美人として振る舞って対人コミュニケーション能力の向上に努めてきた。

 

 

その副作用であろうか,私は飲み会などで一人きり,手持ち無沙汰にしている御仁を見ると放っておけない性分になったらしい。

 

 

仲間内だけで話している彼らを見ると妙にそわそわしてしまい「せっかくだから」と酒の勢いと好奇心も手伝って彼らと会話してみたい気持ちに駆られた。

 

 

私の「八方」にはヨーロッパの方角も含まれていたわけである。



 

 

なお初めに断っておくが,私は

 

 

生まれも育ちも茨城の父親と

生まれも育ちも茨城の母親の間に生まれた

生まれも育ちも茨城の人間である。

 

 

留学などしたこともなく英語の知識も平均の域を出ない,実に凡庸な言語能力を有する平凡な人間で,当然日本語以外に話せるのも義務教育レベルの英語のみである。

 

 

「How are you?(お元気ですか?)」も

 

「Fine thank you.(元気です,ありがとう)」も

 

「And you?(あなたはどうですか?)」も



およそ10年ぶりに使うであろう。

 

 

下手をすれば,英語力で




ルー大柴にすら負ける。



 

これでイタリア人と,しかも英語を用いてコミニュケーションするのは蛮勇に過ぎるかと思われた。

 

しかし今の私はいささかのアドリブと多少の度胸に自信がある。

錆び付いた中学英語を記憶の古箪笥から引っ張りだし,苦心しながら会話を試みた。



幸運だったのは彼らと連れ立って来た,英語とイタリア語に堪能な帰国子女の日本人女性がおり(非常に正確な通訳をしてくださる凄い方でした)

 

また彼らがアドリア海の潮風薫るジローラモ風のルネサンスでアモーレなプレイボーイではなくむしろこちらと同じ香りのするナードなアキバボーイ達だったことである。

 

話を聞けば彼らは3週間に及ぶ休暇を日本で過ごす程,日本に懸想しているようであり,日本のサブカルチャー,特にアニメーションに関心を寄せている観光客で,来日した海外アニメファンの御多分に漏れずコミックマーケット秋葉原を遊覧してきたとのことだった。



当然といえば当然なのだが母国語が共通でない人々とコミュニケーションを取るというのは,これが結構,難しい。

 

お互いが理解できる中間地点にある英語で意思疎通を図るのだが,知識不足うんぬんの前に相手の話す英語がまず聴き取れない。

そしてこちらの話す英語もなかなか聴き取ってもらえないのだ。

 

 

いかにも知った顔で相槌を打つ自分に酷く落胆する場面もあったが,しかし一方で,仲良くしたいという気持ちさえあれば,多少の言語の壁など訳もないのだと強く感じた。



 

我々の間には,”別次元”の言語,すなわち



「日本のアニメーション」という

偉大な共通言語があったのである。




そして何より

 

出川哲朗がバラエティ番組の

 

世界の果てまでイッテQ!

 

で示してくれたように

 

 

 

困った時は,最悪




 

 

 

ボディランゲージと勢い



 

 

で,案外何とかなるものであった。



 

(後編に続く)

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記憶のゆくえ

「酒と女は2合まで」なんてよく言ったものだが

私は女性関係については2号さんどころか1号さんすらままならならず

仮面ライダーであれば物語も始まらない状況にあるので,酒のことしか語る言葉を持たない。

 

酒に関する原体験を思い出してみると

あれは確か幼稚園生の頃だったと思う。

 

母が夕食後のデザートとしてケーキを買ってきてくれ

その中に,スポンジケーキの上に青色のゼリーの層が乗った

ドラクエに出てくるスライムのような色合いのゼリーケーキがあった。

 

戦隊モノではブルー推し,クレヨンも青から真っ先に

無くなってしまうほど青好きだった私は当然そのケーキを選んだのだが,失敗だったのはそのゼリーケーキは

なんとアルコール入りだったのである。

 

買った当人である母も気付かずに青好きな私のために買ってきてくれたわけである。

一つ年下の弟もケーキの色鮮やかさに興味を持ったのか

私の食べかけのゼリーケーキをつついた。

 

10分としないうちに私と弟は茶の間で陽気になり始め

互いに相手の笑い顔を見ると余計におかしみが

こみ上げてきて二人して笑いが止まらなくなる負の連鎖に陥り,腹がねじ切れるのではないかと思われる程の

笑い虫に襲われることになった。

 

なぜかは自分にも理解できないのだが私はハンガーにかかっていた

祖父のよれよれのパンツを頭にかぶり弟をさらに笑かした。

その後の記憶は思い出せない。



二十歳を超えて本格的に酒を嗜むようになってからは

酒で記憶を飛ばすことはほとんど無かったのだが

(飛ぶ前に具合が悪くなることが多かった)

社会人になってからは加齢による衰えなのか

酒に記憶が流されてしまうことが増えた。

 

自分史で,最悪の酒の失敗として挙げられるのが職場の忘年会である。

 

上司や先輩に年末の挨拶をしているうちに

返盃を重ねすぎて泥酔し,しまいには女性の上司に煽られて

紹興酒のボトルを一気飲みしていたらしい。

 

なぜ伝聞形かと言えば宴会の途中から記憶がごっそりと欠落し

気づいた時には家のトイレで突っ伏していて

後日,同期から伝え聞いたからである。

 

忘年会の翌日,激しい二日酔いに襲われながらも

何とか這いつくばって職場に出ると

やけにニヤついた先輩から前日の模様を動画で見せられた。

 

そこには芸能人の結婚披露宴で使われるような

大宴会場の式壇上に上がり司会者からヒールレスラーよろしく

マイクを奪い取って

 

 

 

「よっしゃー!」

 

 

 

と絶叫する私がいた。

 

どうやら忘年会の催しで景品抽選会が行われ

見事,何かを獲得したらしかった。

 

 

数週間後,身に覚えないの無いレイコップの布団クリーナーが自宅に届いた。

 

 

人生においてこれほどまでに記憶を飛ばしたことはなかった。

「穴があったら入りたい」とこれほど思ったことも後にも先にも無い。

 

 

 

 

 

 

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坂上二郎もびっくりの”飛びよう”である)

 

 

 

とは言え,私の周りには私に輪をかけて記憶を飛ばす”飛ばし屋”がいる。

 

 

その”飛ばし屋”は大学時代からの友人・K君といい

彼は家に日本酒セラーを置くほどの無類の日本酒好きであり

 

 

「酒を飲んで具合が悪くなったことがない」

 

 

豪語する剛の者だったが,いかんせんすぐに記憶を飛ばす。

 

一人陽気になって呂律が回らなくなってきたと思ったら

だいたい翌日には何も覚えていない。

彼は酒を飲み快楽だけを享受し

辛い記憶は消し去る術を体得しているのだ。

 

何とも都合の良い頭である。



今でも友人たちの間で語り草となっているのが

鹿児島に旅行に行った時のことである。

 

私とK君を含め4人での男旅だったが

K君はなんと空港を間違えて行きの飛行機に

乗り遅れる失態を犯してしまった。

(陸路で10時間以上をかけて鹿児島まで一人でやってくる羽目になった)

 

彼は夕方過ぎに我々と合流するとそれまでの

遅れを取り戻すかのように行く店々で薩摩焼酎を煽り

最後の店には我々に抱えられて入る有り様となった。

 

店の中でも彼は「しょうちゅうがのみたい!」と

全く焦点の合っていない目で喚くので

見かねた私がこっそり女性店員の方に

 

 

「申し訳ないのですが芋焼酎ですと言ってお水を出していただけませんか」

 

 

とお願いすると,彼女は苦笑しながら頷いてくれた。

 

店の奥に引っ込んだ後,ありがたいことに店員の方は

わざわざ焼酎グラスにたっぷり入った氷水を

「芋の水割りです」と一芝居打って出してくれた。



K君はテーブルの上に置かれた氷水を

待ってましたと言わんばかりに,すかさず奪い取ると

我々の乾杯の音頭も待たずに一気に飲み干した。

 

 

そして眉間に皺を寄せながら大きな舌鼓を打って,こう言った。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ鹿児島の焼酎はちげーな!」





 

 

 

その後の彼の記憶のゆくえは,未だ不明のままである。

 



祖母の右手

最近めっきり人肌に触れることが無くなった。

ひとりやもめの男が当然と言えば当然であるが

女性と肌を重ねるどころか握手やハイタッチで

手に触れることすらできない世の中で

何とも窮屈なものだなとつくづく思う。

 

 

 

私はおばあちゃん子で育った人間である。

 

 

初孫として生まれたこともあり祖父母の愛を一身に受けて育った。

特に母方の祖母は私を眼に入れても痛くないほど猫可愛がりし

あれが欲しいと言えば買い与え,何処そこへ行きたいと言えば

自転車の後ろに乗せて連れて行ってくれた。

 

 

今でも想像できないのだが,祖母は若い頃,鬼母として大変厳しかったらしい。

母曰く,現在では虐待になるのではないかと心配になるほどの

躾をされてきたとのことで激しい折檻を受けては泣きながら謝ったのだという。

 

 

私が祖母と同居していたころはそんな素振りを微塵も見せなかったが

思えば相当の気苦労があったのだろう。若くして夫と離婚し,貧しいながらも

女手一つで三人の子供を育てた。

毎日働き通しで,その苦労が並大抵のことでなかったのは想像に難くない。

 

 

子供たちが手を離れた後は老齢に入ったこともあり,

かつての癇癪は影を潜め,少なくとも私にとっては

とても優しい”おばあちゃん”だった。

 

 

 

おぼろげに残る祖母との記憶で,はっきりと思い出せるのは「祖母の手」である。

祖母は若い時に指を怪我して右手の薬指がひどく曲がっていた。

 

 

私は幼い頃,それが妙に気になって仕方がなく

祖母に手を握られるとよく薬指に触れていた。

歳相応に節ばって皺の刻まれた手だったけれども

触れていると心安らぐ手だった。

 

 

その昔,祖母は料亭で働いていただけに料理が上手かった。

金目の煮付けともつ煮が得意料理で,親戚一同が集まる度に腕を振るい

みんなの舌を喜ばせていた。

 

 

しかし祖母との思い出の中で,なぜか真っ先に思い出される食べ物は

祖母の家の近くにあった「千石屋」という蕎麦屋の店屋物である。

 

 

冬の寒い日の昼時には,祖母はよく鍋焼きうどんを取ってくれた。

具の海老天は身のほとんどが衣のような天ぷらだったが

祖母と一緒に食べられるおかげで私と弟はこたつに入りながら

この鍋焼きうどんを食べるのが大好きだった。

 

 

 

うどんと言えば,私の職場の近くに蕎麦屋がある。

 

 

職場が立ち上がった時の航空写真にも暖簾が写っていたので

およそ40年の歴史を誇る老舗である。

蕎麦屋といってもほとんど定食屋のような店で

現在はコロナ禍で多少の不自由があるようだが

タバコは吸えるし夜になれば酒も頂ける大変重宝なお店である。

 

 

40年の歴史を重ねただけあって店舗も年を重ねた日本家屋だ。

そして,これも仕方ないのだが古い建物ゆえに例の「黒光りの何某」が

客席にしばしば顔を出すことがある。

 

 

私が2階の座敷で食事を取っていた時に

黒光りの何某が現れたことがあった。

 

 

昼食時の座敷は満席で食事中に”奴”の存在を許せるほど

図太い神経をしている人間などそうはおらず

当然だが座敷全体に緊張が走った。

 

 

そこにたまたま女将さん(客の間では親しみをもって「おばちゃん」と呼ばれている)が

食器を下げにやってきた。当然,座敷の騒然とした様子に気づいたが

そこは歴戦のおばちゃんである。

 

 

高速で動く黒く光るアイツを視界に捉えるやいなや

まるで敵将の兜首を取りに行くように屈んだまま小走りで近付き

紙屑を拾うようにさっと素手で鷲掴みにしてみせた。

 

 

さしもの俊敏で名を馳せたにっくきアイツも

おばちゃんの長年の経験から来る動作予測には勝てなかったらしく

敢えなく彼女の右手で握り潰されてしまった。

敵将を討ち取ったおばちゃんは何事も無かったかのように

ゴキブリの亡骸と食器を抱え1階へ降りていったのであった。

白髪交じりのおばちゃんの後ろ姿が

合戦を終えた名将の雄姿のようで実に頼もしく見えた。

 

 

しばらくしてから知ったのだが,御亭主は調理に専念しているため

おばちゃんがたった一人で接客から洗い物

出前から会計までこなしているようだった。

それでも彼女は客に対して惜しみなく笑顔を振りまき

食後のコーヒーまで甲斐甲斐しく出してくれる。

大汗をかきながら忙しなく客の合間を縫って縦横無尽に働いて

お勘定の時には「またよろしくね」とにこやかにで送り出してくれる。

 

 

今でこそコロナ禍の影響で釣り銭の受け渡しも

直接手を介するのは難しくなってしまったが

会計で御釣りを返してくれたおばちゃんの手に

幼き日に触れていた指の曲がった手を思い出す。

 

 

祖母は8年ほど前にこの世を去った。

その最期を看取る時,私が涙ながらに触れていたのも

祖母の右手だったように思う。

 

 

 

惜しみないサービスで我々をもてなしてくれるおばちゃんの右手。

 

 

ひっそりと私の部屋に入ってきて

昼過ぎまで布団に潜っている私の足裏を

悪戯っぽくほほ笑みながらくすぐる祖母の右手。

 

 

 

 

どちらの感触も今は感じることはできないが

決して忘れることのできない温かみを持った

働き者の手だったのは間違いない。



毛のはなし

私は生粋の楽天イーグルスファンである。

 

周囲とは違う物を選びたがる性分から,まだ弱小であった球団創設時より陰ながら応援してきた。

 

2004年に産声を上げたこの球団は創設9年目にして日本一達成という偉業を成し遂げた。

 

今年はあの田中将大が戻ってくる。

実に楽しみでならない。

 

 

幸い私の身の回りには野球好きの友人が複数おり

応援する球団の話になると新人の近況だとか今年の補強は何点だったとか

各々の持論を展開し野球談議に花を咲かせている。

 

しかし野球に明るくない友人がその場にいた場合,話は別である。

 

野球に詳しくないあまり手持ち無沙汰になるのか,私が楽天ファンと知るや嬉々としてこう話す。



 

楽天のロゴってさぁ

『毛』みたいじゃねぇ?」



 

私はこの無礼な発言を受ける度に

相手に再起不能の傷を負わせ猪苗代湖の底に沈めることを心に決めている。

東北大震災を乗り越え東北県民の希望として日本一を獲得した東北楽天ゴールデンイーグルスに対して何てことを言うんだと。

 

失礼千万である。

 

そんな毛に見えるロゴマークを作る球団がどこにいるってんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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「E」と「毛」のどちらに見えるかと聞かれたら

2秒で「毛」と答えてしまうほど勢いのある「はらい」



 

毛だね。

 

「毛」だ。

誰がどう見ても「毛」だこれは。

 

 

犬鷲の雄々しい羽を意識したであろう「はらい」の部分が否応なしに毛っぽさを増している。

ぐうの音も出ない。

 

 

 

思えば私は「毛」という存在に悩まされ続けてきた。

 

また幼子の時分,髪と産毛の区別がつかないほどに毛が薄く,額も広かったためにしばしば「でこっぱち」と呼ばれた。

 

将来に不安を残す頭髪となろう.....と思いきや

物心つく頃には親も制御できないほどの速度で髪は成長し

散髪から1ヶ月もしないうちに髪は伸びに伸びた。

 

歳を重ね今や三十代も目前に迫る中

ひとたび寝れば間違いなく寝癖に悩まされる癖っ毛は健在で

散髪嫌いの私のヘアスタイルは

しばしばライオンキングのシンバのたてがみの如く猛々しくなった。

 

今でも鮮明に覚えている。

 

高校生の理科の実験で顕微鏡を用いて自分たちの髪の毛を観察した折に

他の友人たちがヴィダルサスーンのCMに登場するような若々しい繊細な毛髪だったのに対し

 

 

私が覗いた顕微鏡の先には黒鉛筆の芯が如き剛毛が鎮座していた。

 

 

ちなみに私の家系で言えば父母ともに毛量に文句は無いのだが

 

阿部寛系の濃い顔をした私の叔父の頭髪は

焦土と化しているので一抹の不安がある。



 

いやはや毛というものは何とも因果なものである。

 

頭に生えていればこれほどありがたがられる物も無いのに

生える場所が違ったり一度抜け落ちてしまえば

ただの邪魔者として邪険に扱われるのである。

 

 

髪の毛で

詰まる

風呂場の排水溝

冷蔵庫

開けたらなぜに

ち〇毛がいるの?

ーーー詠み人知らず

(訳:湯浴みをすれば髪の毛は排水溝を詰まらせ,冷蔵庫を開ければ何故か陰毛が入っている。自分で入れたわけでも無いのに)

 

 

 

これは新古今和歌集にも収録されている

 

 

上の句で髪の毛,下の句で下の毛について詠んだ

 

 

一人暮らしの男性の悲哀を情感豊かに描いた防人の一首である。

 

 

マジで焦るのである。特に下の毛。

一人暮らし最大の敵と言っても過言ではない。

 

まさに神出鬼没で「なんでここに?」という場所に毛が落ちている。

 

スナフキンかな?と思うもん。




しかし最近で一番驚いたのが女性のものと思われるえらく長い髪の毛。

 

時折あるのだが,明らかに女性の長さだろという毛髪がしばしば見つかる時がある。



 

 

 

家に女性を入れた記憶など

ほとんどないにも関わらず,だ。



 

 

 

そういえば最近,家にいると




 

 

 

 

 

 

 

知らない女性の声が

聞こえるんですよね。



ロマンスの神様

 

巷では某SNSにて30代独身女性を名乗る人物が

「プレゼントに4°Cを贈る男性はどうなの」

と疑問を呈し写真と共に投稿したところ

 

「だから独身なんだよ!」

「プレゼントをネットに晒すなんて!」

 

と罵詈雑言が飛び交い炎上沙汰になったとのことである。


この話を耳にし,怒りのあまり体温が44.4℃まで急激に上昇

社内規定により1ヶ月の出勤停止及びPCR検査を受けることを余儀なくされた男がいた。



俺である。



愛する人間のためにプレゼントが飛び交うこのシーズン

街行く人々が「きよしこの夜」と「もろびとこぞりて」を清らかに歌い上げる中


「きよしのズンドコ節」と「もろびと呪いて」


を歌うほどの,この俺である。

 




もし俺がTwitterなんぞにプレゼントの恥を晒されたと知ったならば

 

 

 

通信教育で即座に全集中・炎の呼吸を学び

 

 

 

1000℃の業火で相手を

プレゼントもろとも

消し炭にしていただろう。

 


しかし炎上騒ぎも一週間と経たないうちに鎮火。

まさにネットリテラシーの欠如が招いたこの「4°C騒動」


ではどのように対応したら炎上を回避できたのか。

後学のために是非ともシミュレーションしておく必要がある。

一人家でうんうん唸り、鬼滅の刃を観ながら考えてみた。



①女性側が「ありがとう〜!嬉しいよ〜!大切にするね!」と一言お礼を言って、その帰りがけに大黒屋へ寄る


実に無難でオーソドックスな手である。

古来より馴染みの客から贈物をもらったキャバ嬢によって使われた錬金術だ。

(俺は密かに「キャバクラ錬金術師」と呼んでいた)


しかし相手との関係性を考えた場合

次会った時に「なぜ相手はプレゼントをつけていないのだろう?」と疑問を抱き

揉めるのは必定なのでこれは却下である。




②4℃に敵対的買収を仕掛け、乗っ取った後に社名を

「コムデギャルソソ」に変える



逆転の発想で

むしろプレゼントのブランド価値をこちらから上げにいく

というストロングスタイル。

幸い4°Cのジュエリーデザインもギャルソンのロゴもハート型であるので

何とか誤魔化せそう(ハナクソほじりながら)


しかし4°Cを買収できるほどの財力を持っていたらそもそも結婚に困らなさそうではある。



③ネックレスを1時間以上着用しなかった場合,爆発する仕掛けを設置しておく


あえて男性側からのアクションを想定してみる。

仮に女性側がこちらのプレゼントを無下にした場合

相手側は聖夜の塵となる算段である。

 

これによって男性側は心置きなく次の恋へ向かうことができ

来年のクリスマスは刑務所で過ごすことになるだろう。



④「もうダメダメ〜!大人の女の子に4°Cなんて〜!

もっとアダルトな品を真剣に選ばないと〜

プンスカプン!

あ、申し遅れました。

私,アクセサリー評論家

質屋入子(しちやいれこ)です!」

 

と謎のアクセサリー評論家に扮して

やんわりと相手にアドバイスを送る。

 


これである。

あえて正体不明のアクセサリー評論家に扮し

コミカルな口調で相手の気炎を削ぎ

さらにはアドバイスまで送るという

徹底ぶりで自分好みの男に仕立て上げていく。

炎上してしまった30代独身女性が取る手段はこれしかないだろう。

 


こんなことされてしまったらもう男性側は

メロメロメロウで恋のメマーイダンスを踊ること間違いなしである。

 

 

その日のうちに聖夜の街へと消え去り

 

二人は絶好調真冬の恋スピードに乗って

 

急上昇熱いハート

 

身につけた4°Cも溶けるほどの恋が

繰り広げられるだろう。

 


翌週には両家に挨拶を済ませて年明け一発目に結婚式。

晴れてTwitterのアカウント名から

 

 

 

「30代独身女性」の文字が消え

「30代ロマンスマザー」の名前が

燦然と輝くことになる。

 





ですのでね,女性諸賢は各位,是非ともクリスマスプレゼントには御用心。

もし気になる男性からのプレゼントが気に入らなかったら

 





「何このプレゼント!分かってないな〜。

よし、センス磨いてやるから今度選びにいくよ!」



とスマートに次戦のチャンスを与えていただければ

これに勝る栄誉なし。幸甚の至りである。

 

 

 

 






男性側は奮起し

 

きっとあなたを

 

ロマンスの神様の元へ

連れて行ってくれるはずだ。

デカメロン

昨今のコロナの流行とかつてのペスト大流行を重ね合わせた人は多くいるかと思いますが

文学の徒のはしくれとしては,やはりボッカチオの「デカメロン

(※デカメロン:1348年のペスト大流行から逃れるために郊外へ引きこもった10人の男女の物語)

を思い出さずにはいられません。

 

 

 


コロナがもたらしたのは混乱と自粛だけではなく

我々に新しい生活様式と価値観も植え付けていきました。

その中で「オンライン飲み会」という新しい交流方法が

普及したのは周知のとおりです。

 

 



かくいう僕も4月頃の緊急事態宣言下ほどではないにせよ

時折,友人とオンライン飲み会をして溜飲を下げているところです。

 

 



先日もオンライン飲み会をしていると,女性陣の口からふとこんな話題が上がりました。

 

 


「男の人ってさ,ほんと巨乳好きだよね~」

 

 


下世話な話というのは老若男女問わず共通らしく

あっという間に火がついて,まあ盛り上がること盛り上がること。

 


かくいう僕も童貞時代ほどではないにせよ

時折,一人でグラビアアイドルの画像を眺めて溜飲を下げているところです。

 


しかし次第にトークはヒートアップし,酒による酔いも手伝って

女性陣から「男性はすべからく脳内がエロに占拠されたサル野郎だ!HAHAHA!」

と思われているのではないか。

 

世の男性はすべからく変態野郎だと思われているのではないかと

一人勝手に義憤に駆られることとなりました。

 


僕って,こう見えても「下ネタ界のMIT」と

呼ばれるエロマンガ島大学性的理論学科で

MEA(Master of Erotic Administration)を

取得してるじゃないですか。

人一倍エロには敏感な男じゃないですか。

走れエロスじゃないですか。

 

 

探偵!ナイトスクープ」と「世界一受けたい授業」の

巨乳特集でゲストコメンテーター

としてオファー受けるくらいじゃないですか。



「エロと御世辞は使いよう」をモットーとしてる

僕は過熱した議論に一石を投じることにしました。

 

 


それはすなわち

 

 

 

 


「男性にとっての巨乳は

女性にとっての高身長である」

 

 

 

 


という理論です。

僕は研究に研究を重ねた結果たどり着いた

この理論にかねてより絶対の自信を持っていました。

かつて中学生の時分には貧乳好きを豪語する友人に対して

 

 

 

 


「じゃあバスト200と-50だったら

どっちが良い?」

 

 

 



という

 



禅問答のような謎理論

 



を吹っ掛けるほどの理論派であった僕ですから(※実話)

男性が巨乳好きに至るメカニズムをいかに

上手く女性に伝えるかに苦心し続けたことは想像に難くないでしょう。

 



ていうか,謎理論どころか,もはやバスト-50とか

 

 



陥没している

 



レベルであり,身長で例えるなら

 



地面に埋まっている

 



レベルです。

 



とにかく男性がバストに感じる魅力を

女性の顰蹙を買うことなく相手に伝えるのが

それだけ難しかったということなのです。

(ちなみに比較対象が「筋肉」でないのは

身長も胸も努力だけでは発達しないという点で共通しているからです)

 



想像してみてください。

女性にとって男性は少なくとも

自身より身長が高い方が魅力的に見える

というのは割とマジョリティな意見ではないでしょうか。

 

 

 

しかし,男性の魅力を決定的なものとするか?

と言われればまた別な話ではないでしょうか。

 



「身長が180cm以上ないと男じゃないよね」と語る人はむしろマイノリティです。

これは男性も同じで「Eカップあらずんば女性にあらず」と



平家もビックリ

 



なほど驕り高ぶる不埒者はそういないわけで

もしそんな不貞の輩がいたとしたら

顔がパンパンになるまでビンタかまし

額に「ワコール」と書いておきますので僕にお知らせください。

 



「巨乳」も「高身長」もあくまで

「オプション」であり

「オシャレ」や「面白い」と何ら変わらない個性ということなんですね。

 



ですのでね、男性が女性の胸の話を

していても暖かい目で見守って欲しいのです。

 

やってることは成田凌

いかに高身長で魅力的かについて

語るのと何ら変わらないのでね。

 

 



「彼氏との理想の身長差は13cm」は

 

 

 

「時速60kmで走る自動車の

窓から手を出した時に感じる風圧は

Dカップと同じ圧力」と大差ないんでね。

 

 



まさにコロナ禍で現代の

デカメロン」が繰り広げられる中

話題もまた文字通り

 

 

 

 

 

 

 



男性にとっての「でかメロン」であった

 

 

 

 

 



わけですが,オンライン飲み会に参加していた

男性陣も女性陣も一人熱弁を振るう僕に対して

 

 

 

 

 

 

 



若干引き気味だった

 

 

 

 



ことを,ここにご報告いたします。

 

2021.01.27 リマスター