イタリア人と会話してみて少し意外だったのは
「イタリア人も英語に堪能な人間は多数派ではない」
ということだった。
欧米人というのは概して母国語以外に英語にも堪能なものだと思っていたが,日本人と同じく母国語以外は話せないという方も存外,多いようだ。
しかし飲み会の中で,イタリア人一行のうち唯一英語と日本語を理解できる人物と話をすることができた。
彼の名は「マテオ」といった。
彼はイタリアで日本人の恋人がいるとのことで,日本語にも多少明るく,私が名前を尋ねるとイタリア訛りの英語で自己紹介をしてくれ,最後に
「チョ,マテヨ!チョ,マテヨ!」
と繰り返した。
どうやら彼は「マテオ」という名前が「待てよ!」に近い音だと知って,我々が覚えやすいようにキムタクのモノマネで自己紹介をしてくれたらしかった。
彼はなんと
イタリアのキムタク
だったわけである。
他の方も気さくな人ばかりで,私が
「俺の先祖はサムライだぜ」
と抜かせば,冗談と分かっていても爆笑してくれる。さすがは陽気なイタリア人だと感心した。
日本の文化を理解して積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくれる彼らの姿にはどこか心打つものがあった。
アニメを起点にして上手くコミュニケーションが取れ始めた私は,気を大きくし,酔っていたので記憶が定かでなく,やや誇張も入っているかも知れないがこんな質問をした覚えがある。
「......Hahahahahaha!
By the way,
(ところで)
Do you know Taimanin Asagi?
(あなた方は対魔忍アサギ*1を知っていますか?)」
※知らない方は絶対に検索をしてはいけない
欧米人が好きな物といえば
忍者,侍,富士山
の3つであることは日本人にとって周知の事実である。
そして私は日本でも名うての
「Japanese Hentai(日本的変態)」
として知られた男である。
その安直かつステレオタイプなイメージをもって
エグいほど汁っ気のある
どエロくのいちの
成人向けアニメを紹介した。
当然,彼らは知るはずもなかったが我々はアニメーションという共通言語で,すっかり打ち解けていたので私の繰り出すエロ忍者トークに興味津々であり,私はすぐさまスマートフォンで
「対魔忍アサギ エロ」で検索し
※絶対に検索してはいけない
彼らに
性的感度を3000倍に強化された
ズッチョンズッチョンなくのいちを
「This is Japanese traditional Ninja!
(これは日本の伝統的な忍者です)」
と付け加えて,お見舞いしてやったのであった。
今も日本のどこかで活躍している伊賀忍者や甲賀忍者に暗殺されても文句は言えない所業である。
しかし,私の予想通り,彼らは爆笑の渦に包まれた。
彼らはお返しとばかりに日本で名うての変態である私も知らないような
胸元のはだけた中性的な少年の描かれたアニメDVDのパッケージを見せつけてきて
「これが俺たちの大好きな
ジャパニーズアニメーションだ!」
と負けじと誇示してきた。
これには私も舌を巻き
「My favorite animation is this!
(私の一番好きなアニメはこれです)」
と,小学生が使うような文法で大笑いをかました。
イタリア人と日本人の男たちが喧々諤々と特殊性癖を刺激するアニメ談議を交わす様は,たった一夜ではあるが,WHOのテドロス局長もびっくりな
World Hentai Organization
(世界変態機関)の誕生であった。
やはりエロは言語を超えて万国共通なのである。
ひとしきり飲み明かした我々は24時近くになって河岸を変え,新宿の花園神社で年末特有の静寂と喧騒の入り混じった東京らしい雑多な雰囲気に包まれていた。
周囲の参拝客がカウントダウンを始める中,境内に向かう石段の上で,イタリア人の彼らが叫んだ
「トレ,ドゥーエ,ウノ!」
の掛け声の中に,酒に酔い陽気な気分を纏った地中海の雰囲気を感じられたような気がする。
その後は,朝方まで開いている近くの中華料理屋で気だるい時間を過ごした。
マテオがお土産で持ってきたイタリアで祝い事の時に食べるという,ヘルメットのような巨大なケーキをご馳走してもらい,甘くなった口を中華料理で中和するというなんとも異国情緒漂う年の初めだった。
酒に酔いつぶれた仲間を抱えながら
ホテルへ戻る彼らに別れを告げた私は
心地よい疲労感を抱いて,寒空の下
マフラーで口元を隠しながら家路に着いたのだった。
あれから1年以上経った。
彼らは今,どうしているのだろうか。
イタリアのニュースを見かける度に一夜ばかりの奇妙な異文化交流が思い出される。
ようやくワクチンの接種が始まり
全世界を巻き込んだ感染症騒動にも
かすかに光明が見え始めたように思う。
もしいつか彼らと再び会うことができたなら
とびきりのJapanese Hentaiを
見せつけてやろう
そう願ってやまない。
*1:※絶対に検索をしてはいけない