ネオ古今和歌集

読むとIQが下がります

記憶のゆくえ

「酒と女は2合まで」なんてよく言ったものだが

私は女性関係については2号さんどころか1号さんすらままならならず

仮面ライダーであれば物語も始まらない状況にあるので,酒のことしか語る言葉を持たない。

 

酒に関する原体験を思い出してみると

あれは確か幼稚園生の頃だったと思う。

 

母が夕食後のデザートとしてケーキを買ってきてくれ

その中に,スポンジケーキの上に青色のゼリーの層が乗った

ドラクエに出てくるスライムのような色合いのゼリーケーキがあった。

 

戦隊モノではブルー推し,クレヨンも青から真っ先に

無くなってしまうほど青好きだった私は当然そのケーキを選んだのだが,失敗だったのはそのゼリーケーキは

なんとアルコール入りだったのである。

 

買った当人である母も気付かずに青好きな私のために買ってきてくれたわけである。

一つ年下の弟もケーキの色鮮やかさに興味を持ったのか

私の食べかけのゼリーケーキをつついた。

 

10分としないうちに私と弟は茶の間で陽気になり始め

互いに相手の笑い顔を見ると余計におかしみが

こみ上げてきて二人して笑いが止まらなくなる負の連鎖に陥り,腹がねじ切れるのではないかと思われる程の

笑い虫に襲われることになった。

 

なぜかは自分にも理解できないのだが私はハンガーにかかっていた

祖父のよれよれのパンツを頭にかぶり弟をさらに笑かした。

その後の記憶は思い出せない。



二十歳を超えて本格的に酒を嗜むようになってからは

酒で記憶を飛ばすことはほとんど無かったのだが

(飛ぶ前に具合が悪くなることが多かった)

社会人になってからは加齢による衰えなのか

酒に記憶が流されてしまうことが増えた。

 

自分史で,最悪の酒の失敗として挙げられるのが職場の忘年会である。

 

上司や先輩に年末の挨拶をしているうちに

返盃を重ねすぎて泥酔し,しまいには女性の上司に煽られて

紹興酒のボトルを一気飲みしていたらしい。

 

なぜ伝聞形かと言えば宴会の途中から記憶がごっそりと欠落し

気づいた時には家のトイレで突っ伏していて

後日,同期から伝え聞いたからである。

 

忘年会の翌日,激しい二日酔いに襲われながらも

何とか這いつくばって職場に出ると

やけにニヤついた先輩から前日の模様を動画で見せられた。

 

そこには芸能人の結婚披露宴で使われるような

大宴会場の式壇上に上がり司会者からヒールレスラーよろしく

マイクを奪い取って

 

 

 

「よっしゃー!」

 

 

 

と絶叫する私がいた。

 

どうやら忘年会の催しで景品抽選会が行われ

見事,何かを獲得したらしかった。

 

 

数週間後,身に覚えないの無いレイコップの布団クリーナーが自宅に届いた。

 

 

人生においてこれほどまでに記憶を飛ばしたことはなかった。

「穴があったら入りたい」とこれほど思ったことも後にも先にも無い。

 

 

 

 

 

 

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坂上二郎もびっくりの”飛びよう”である)

 

 

 

とは言え,私の周りには私に輪をかけて記憶を飛ばす”飛ばし屋”がいる。

 

 

その”飛ばし屋”は大学時代からの友人・K君といい

彼は家に日本酒セラーを置くほどの無類の日本酒好きであり

 

 

「酒を飲んで具合が悪くなったことがない」

 

 

豪語する剛の者だったが,いかんせんすぐに記憶を飛ばす。

 

一人陽気になって呂律が回らなくなってきたと思ったら

だいたい翌日には何も覚えていない。

彼は酒を飲み快楽だけを享受し

辛い記憶は消し去る術を体得しているのだ。

 

何とも都合の良い頭である。



今でも友人たちの間で語り草となっているのが

鹿児島に旅行に行った時のことである。

 

私とK君を含め4人での男旅だったが

K君はなんと空港を間違えて行きの飛行機に

乗り遅れる失態を犯してしまった。

(陸路で10時間以上をかけて鹿児島まで一人でやってくる羽目になった)

 

彼は夕方過ぎに我々と合流するとそれまでの

遅れを取り戻すかのように行く店々で薩摩焼酎を煽り

最後の店には我々に抱えられて入る有り様となった。

 

店の中でも彼は「しょうちゅうがのみたい!」と

全く焦点の合っていない目で喚くので

見かねた私がこっそり女性店員の方に

 

 

「申し訳ないのですが芋焼酎ですと言ってお水を出していただけませんか」

 

 

とお願いすると,彼女は苦笑しながら頷いてくれた。

 

店の奥に引っ込んだ後,ありがたいことに店員の方は

わざわざ焼酎グラスにたっぷり入った氷水を

「芋の水割りです」と一芝居打って出してくれた。



K君はテーブルの上に置かれた氷水を

待ってましたと言わんばかりに,すかさず奪い取ると

我々の乾杯の音頭も待たずに一気に飲み干した。

 

 

そして眉間に皺を寄せながら大きな舌鼓を打って,こう言った。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ鹿児島の焼酎はちげーな!」





 

 

 

その後の彼の記憶のゆくえは,未だ不明のままである。