ネオ古今和歌集

記事が読まれるごとに,僕に電流が流れる仕組みになっています。

お酒をつくってあそぼ!(犯罪)

令和の時代は驚くべき出来事の連続である。

 

 

緊急事態宣言の発令により東京都心部では灯火管制が敷かれ,ついには禁酒令まで発布される運びと相成った。

 

 

多様性と自由主義謳歌する現代社会で「灯火管制」と「禁酒令」が敷かれるとは夢にも思わなかった。しかしながら,歴史好きの私としては大変不謹慎だが少し興奮するところがある。

 

 

この際だからと禁酒の歴史を調べてみると,これが存外に面白い。

 

 

いつの世も抑圧する側とそれに対抗する側という構図が生まれ,抑圧する側も法律で規制しようとするのだが,対抗する側も上手いこと抜け道を探し裏をかいてルールの穴を突いてくる。今風に言えば,ゲームの裏ワザを見つけるような感覚だろうか。

 

 

歴史を紐解いてみると,世界中で禁酒を強いられた時代があった。特にアメリカでは禁酒法時代と呼ばれる一時代が築かれたほどであり,時のギャングスタたちと強く結び付き,今では映画やアニメなどの題材としても描かれるノワールテイストのアウトロー世界を構築した。

 

 

日本でもその土地土地で禁酒が行われていたようである。

私が知る中では,土佐国(現在の高知県)の戦国大名である長宗我部元親が領内に禁酒を命じたにも関わらず,自らは密かに城中へ酒樽を運び込ませ飲酒を楽しんでいたため,重臣の福留隼人に目の前で酒樽を割られて諫められたという逸話がある。

土佐人の酒好きぶりを物語る一幕である。



そして,いつの世も禁酒の裏には密造酒の存在があった。

 

 

「自粛と補償はセットだろ」ならぬ

「禁酒と密造はセットだろ」である。

 

 

 

酒の歴史は古く,世界最古の酒は破損したハチの巣に雨水が溜まったことで偶然できた産物だという。

古くから人間の生活と共にあり,嗜好性と依存性を有する酒は世界中で生産され,文明発展と共に人類社会の柱石となる租税徴収のため課税対象に組み込まれることとなった。

人々は酒の魅力から逃れられず,税金逃れのための密造に手を染め始めた。

 密造酒の概念が登場するきっかけは”脱税”だったわけである。

 

 

概して,人間が悪知恵を働かせる違法行為は俯瞰して見ると,先入観の裏をかいたユニークなアイデアが盛り込まれ,思わず感心してしまうことも多い。

 

そういった意味でも,お酒の歴史は非常に興味深い。

 

 

NHK教育「つくってあそぼ」のワクワクさんとゴロリがいきなり密造酒を作り始め,番組の途中からロレツが回らなくなる回を放送してくれたなら,間違いなく受信料収入は過去最高額を更新することだろう。つくってあそぼ,じゃない。



 

さて,今回は令和の禁酒法時代の到来に際して,魅惑の違法酒エピソードをご紹介したいと思う。

 

 

なお,初めに断っておくがお酒のDIYだけは決してやってはいけない。そもそもDIYで済ませて良いものではなく,れっきとした密造であり犯罪である。

酒造とは精密な管理の元に菌の力を借りて発酵を操るデリケートな作業だ。

なお,発酵と腐敗の違いは「生産されるものが人間に有益かそうでないかの違い」とのことである。

 

一歩間違えば,単に腐った飲食物を量産するテロリストとなる危険性があるので,ご注意いただきたい。



 

 

Grape Brick(ブドウのレンガ)

 

以前,xcloche氏のブログで紹介されていた面白密造酒である。

詳細は以下のブログ記事に詳しい。

 

 

xcloche.hateblo.jp

 

 

f:id:tanacatharsystem:20210506191514j:plain

https://www.collectorsweekly.com/stories/267495-prohibition-era-vino-sano-grape-brick

 

 

 

要は

 

 

禁酒法で酒を売れなくなったので「水で戻すとグレープジュースが作れるブドウの塊」のパッケージに

 

「こんなことをしたら発酵してワインになってしまいますのでやめてください!」

 

と注意書き風にワインの醸造方法を書いて売り出す

 

 

という,ダチョウ倶楽部「絶対に押すなよ!」的発想の密造酒である。

この記事を読んだ時,そのウィットといたずら心に富んだアイデアに思わず感心して唸ってしまった。違法行為を助長することは確かだが,何だか憎めないものがある。

 

なお,禁酒法により酒需要が高まっていた時代,このブドウのレンガは大いに売れたとのことである。

 

 

酒は人の頭の回転を鈍らせる。しかしそれは”飲んだ時”に限る話だ。

 

 

 

 

こち亀両さんの密造酒

 

週刊少年ジャンプの名作「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の単行本94巻に収録されている「日本酒密造計画!!の巻」で描かれる密造酒エピソード。

 

f:id:tanacatharsystem:20210506184032j:plain

出典:こちら葛飾区亀有公園前派出所 94巻1話「日本酒密造計画!!の巻」より

 

あらすじとしては

 

両津が自身の酒代節約のために米騒動で余った米から大量の日本酒を作るが流石に酒豪の両津にも飲みきれず,警察署内で販売することを思いつく。

一方,新葛飾警察署内では両津が米を入手した直後から安酒販売のチラシが流れるようになり,その因果関係を怪しんだ大原部長と中川が追及に乗り出すのだが,両津に繋がる証拠が徹底的に隠滅されており(寮の裏庭にある工場は撤去され,跡地から検出された大量のアルコール反応についても「地面にビールを撒く会の会長をしているから」と言い逃れたりする),両津の告発には至らないかと思いきや,最後はしょうもないオチで手ひどい御仕置きを食らう

 

というものである。

 

 

現職の警察官である両津勘吉が警察署内で密造酒を売り捌こうとして痛い目を見るという,秋本治のセンスが光る超絶ブラックジョーク回。

こち亀の長い歴史の中でも,屈指の爆笑回なので機会があれば是非読んでみることをお勧めする。



 

 

NHK謹製・自家製梅酒

 

かつてNHKが「みりんと梅で作るお手軽梅酒!」という紹介番組を放送したことがあった。

しかし国営放送が紹介しているからと安易に信じてはいけない。

なんとこれが,ばっちり違法行為だったのである。

 

 

一見,インスタグラマーがお手軽DIYとして紹介するような内容だが,実は梅を漬け込む酒のアルコール度数が20%未満の物で作るとばっちり違法である。(20%以上ならば問題ないらしい)

番組で紹介されたみりんではアルコール度数が20%未満のため,図らずも酒の密造を奨励する内容となってしまったわけだ。

 

ちなみに,製造してしまった者は酒税法第54条により10年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられる。 

 

 

 

どぶろく

 

もしかしてだけど~もしかしてだけど~,それって法律違反してるんじゃないの~?

 

どぶろくと言えば日本最古の酒である。1000年以上も昔に村中の男女が水と米を用意して生米を噛んでは容器に吐き戻し,一晩以上の時間をおいて酒の香りがし始めたら全員で飲む風習があったらしい。

 

いわゆる「口噛み酒」である。



近年で言えば,映画「君の名は。」にもこの酒は登場して話題となった。

 

 

f:id:tanacatharsystem:20210506184434j:plain

出典:映画「君の名は。」より

 

 

 

神事の一つとして巫女の美少女が一度口に含んだ物を吐き出して作るという一部界隈のフェチズムを強烈に刺激するアイテムだが,これも実は危うい。

 

 

news.yahoo.co.jp

 

 

 

 

酒造は精密な温度・湿度管理が必要なのでアルコール度数が1%を超えることはまず無いだろうが,万が一,度数が1%を超えてしまい,町内に振舞うようなことがあれば

 

 

「君の名は?」と聞かれて「1234番です」と答えることになる可能性もあるし,そもそも集団食中毒の危険性が非常に高い。

 

 

 

ティアマト彗星の隕石が落ちる前に糸守町は密造酒によって全滅である。

 

 

 

蛇足だが先日,友人が浜辺美波の口噛み酒が飲みたい」と超絶酸っぱい腐敗臭漂うギャグをかましていたので,今後の戒めのためにも本ブログにて晒し首にしておくことにする。

 





 

やしおりの酒

 

古事記に登場する八度に渡って醸したという古の酒。「八塩折之酒」と書く。

スサノオノミコトヤマタノオロチを泥酔させ,その隙に退治するため用意した必殺兵器。もとい,酒である。

 

 

f:id:tanacatharsystem:20210506184508j:plain

出典:「日本略史 素戔嗚尊月岡芳年

 

 

大ヒット映画「シン・ゴジラ」でも,ゴジラの口内から血液凝固剤を注入する「ヤシオリ作戦」に引用された。

 

 

f:id:tanacatharsystem:20210506184611j:plain

出典:映画「シン・ゴジラ」より「ヤシオリ作戦

 

 

実際の日本酒の観点で言えば,本来,酒というものは米を水で醸造するものだが,「貴醸酒」と呼ばれる酒は米を酒で醸造する。やしおりの酒はこの「貴醸酒」に当たる。

 

 

gakusan-blog.com

 

 

八回も醸すやしおりの酒の強さは推して知るべしであろう。

 

いかに天下のヤマタノオロチとは言え,八つの首で酒樽ごと飲み干した貴醸酒を処理できる強靭な肝臓は持ち合わせてはいなかったと思われる。

 

ウコンの力タンクローリー単位で必要となりそうだ。

 


法的に考察するならば,スサノオノミコトは初めからヤマタノオロチを酔い潰すつもりで酒を飲ませているので,傷害罪,あるいは傷害致死罪が適用されるだろう......と思ったが,よくよく考えれば,スサノオノミコトはアマテラスの弟であり,れっきとした”神様”なので,統治行為論の観点から司法審査の対象からは外れるだろうと思われる。



 

人と酒と不条理と

 

今回の記事を書くに当たり知ることになった人と酒の結束の強さは,自分が酒を嗜む分,より高い解像度で理解できた。

 

過去の歴史に限らず,令和の禁酒法時代でも違法......とまでは言わないが,飲食店で飲めない分,屋外で飲酒したりビールを泡立て麦茶として販売してみたり,依然インモラルな形で親しまれている。

 

 

人はストレスからの救済をしばしば酒に求める。

 

”救い”を奪う禁酒という不条理に直面した時,人々は世界に対して違法酒という手段でささやかな反抗を見せる。

 

その反抗はイリーガルの危険を孕みながらも一種のカタルシスを持つ。

 

飲酒がもたらす快楽の根底に,”背徳感”という人間を魅了する酒の本質を垣間見たように思った。